秋だった。
外の片付けをしていた。
ーーー
クロが
長いこと鳴いていた。
歌うように。
語りかけるように。
ーーー
あんなに鳴くのは
初めてだった。
物置にいた小さな黒猫
初めて見たのは
もっと前だ。
ーーー
開けっぱなしにしていた物置の
上の方に
小さな黒猫が
潜んでいた。
まだ1歳にも
なっていないくらいの。
ーーー
捕まえようとしたら
逃げていった。
あの猫だかどうか
今もわからない。
ーーー
町内を歩いてる黒猫
を時々見かけるようになったのは
それからだ。
全然隠れていないぞ

ももは
最初から人懐っこかった。
庭を我が物顔で歩いていて
近づいても平気だった。
ーーー
クロは全く違った。
ーーー
遠くの物影から
こちらの様子を見ている。
絶対に
近づいてこない。
ーーー
それがー
日が経つにつれて
変わってきた。
こちらが気になるようで
隠れているつもりで
体が半分出ている。
ーーー
「クロ、全然隠れてないぞ」
「丸見えだぞ」
夫が笑っていた。
モモとクロは仲良しだった

家の中から見ているとー
どこからか時間になると
いつのまにかクロが来て
いつもベランダ下にいるももと
一緒にいるようになっていた。
ーーー
いつの間にか
仲良しになっていた
ーーー
体はクロの方が
ずっと大きい。
それなのにー
ももの方が
態度が大きかった。
「私の縄張りに
入れてあげてるんだから
言うこと聞きなさいよ」
そんな感じで。
ーーー
ももは鍵しっぽだ。
クロも
同じ鍵しっぽだ。
ーーー
兄弟だろうか。
それとも
親子だろうか。
ーーー
「なんだ、仲良しさんだね」
そう言いながら
眺めていた。
夫に鳴くようになった

クロは
声を出す猫ではなかった。
いつも
黙っていた。
ーーー
それがー
夫とは
だんだん仲良くなっていった。
ーーー
話しかけるように
鳴くようになった。
夫にだけ。
ーーー
ももを保護してから
半年ほど過ぎた頃だ
ーーー
クロは
野良生活が長い猫だ。
顔も歯も大きくて
たくましい。
食べ方に勢いがあって
手から餌をあげることはできない。
近くに寄るのも
少し気をつけるくらいだ。
ーーー
それなのにー
声は
甘えん坊のように可愛い。
ーーー
ももが友達になるのも
わかる気がする。
ーーー
人には
決して近づかないのに。
夫には
鳴いていた。
ーーー
その頃
クロは毎日
来るようになっていた。
秋の日、長いこと鳴いていた
秋だった。
外の片付けをしていた。
ーーー
久しぶりにクロが来た。
「お前はどこに
遠出しているんだ?」
夫がそう聞いた。
ーーー
そうしたらー
クロが
いっぱい話してくれた。
ーーー
長いこと
鳴いていた。
歌うように。
ーーー。
「そうなんだ」
「へー」
「ふーん」
そんな風に
相槌を打ちながら聞いていた。
ーーー
あんなに鳴いたのは
あの日だけだった。
ーーー
その冬ー
クロは
姿を見せなくなった。
ーーー
春になると
また来るようになった。
「おかえり」
そう言った。
ーーー
でもー
来る回数は
だんだん減っていった。
それから姿を見ていない

次の年の10月ー
夫が入院した。
ーーー
同じ頃から
クロの姿を見なくなった。
クロが来なくなったのか
私がそれどころではなくて
気づいてあげられなかったのか。
ーーー
毎年、冬でも
駆け回る姿を見ていたのに。
ーーー
2階の部屋から
町内を歩くクロを
よく見かけていた。
ーーー
今は
全く見えない。
ーーー
買い物に出ると
いつも探している。
町内を歩きながら
気にしている。
ーーー
キュートな猫ではない。
どっしりとした
顔も大きい
貫禄のある猫だ。
ーーー
それでもー
どこかで誰かが
保護してくれたのかもしれない。
ーーー
ももがそうだったように
